大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成9年(ネ)534号 判決 1998年1月27日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付別紙図面(1)「実測平面図」の58、59、32、34、36、60、53、52、58の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地を明け渡せ。

三  被控訴人の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

原判決が摘示する事案の概要(三頁八行目から一四頁六行目までの記載)のとおりであるから、これを引用する。なお、原判決添付別紙図面(1)「実測平面図」の58、59、32、34、36、60、53、52、58の各点を 順次直線で結んだ範囲内の土地(一一九五・六二平方メートル)を「本件係争地」と略称する。

第三  当裁判所の判断

一  本件係争地の帰属について(争点1)

当裁判所も、本件係争地は(一)及び(二)土地に属するものと認める。その理由は、原判決二〇頁四行目の「渋々認めた」を「渋々認め、いずれ明け渡す旨の意向を漏らした。被控訴人(昭和五年四月一六日生)は、これらのやり取りを見聞していた」と改めるほかは、原判決の第三「争点に対する判断」の一の1、2(一四頁九行目から二二頁四行目までの記載)のとおりであるから、これを引用する。

二  時効取得の成否及びその登記の要否について(争点2)

1 被控訴人が昭和三一年一二月二九日から現在に至るまで本件係争地を占有していることは、当事者間に争いがない。したがって、被控訴人は、昭和五一年一二月二九日の経過により本件係争地を時効取得したものと認められる。

被控訴人が原審の第七回口頭弁論期日(平成五年一二月三日)において右時効を援用したことは、当裁判所に顕著である。

2 一方、被控訴人の取得時効が完成した後である平成四年一〇月二〇日に控訴人が(一)土地を前所有者(時効完成時の所有者)城から買い受け、(二)土地を前所有者(時効完成時の所有者)谷から買い受けたことは、当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、売買代金は(一)土地が一〇二万円で、(二)土地が一〇五万円であり、控訴人は、同月二九日、(一)、(二)土地についてその旨の所有権移転登記を経由したことが認められる。

3 次に、控訴人が登記の欠缺を主張することができる正当の利益を有する第三者に該当するかどうかについて判断する。

(一) 控訴人が(一)、(二)土地を購入した目的、購入するまでの経緯については、原判決二四頁五行目の「原告は、被告が(一)及び(二)土地に食い込んでいる」を「控訴人は、先に買い取った前記数筆の土地を東側から順次削り進み、(二)土地の東側隣接地である同番二七の土地近くまで工事が進行した時点で、かつて被控訴人の父卯之助が越境の事実を認めた経緯があることを聞き及んでいたので、もし被控訴人本人もその」に改めるほかは、原判決二三頁の四行目の「前記」から二六頁七行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(二) 以上の事実によれば、控訴人は、本件係争地が被控訴人によって既に時効取得されている可能性が高いことを認識して(一)、(二)土地を買い受けたものと認められる。

しかしながら、控訴人のいわゆる背信性については、次の理由により、これを消極に解する。

(1) 控訴人が(一)、(二)土地を買い受けたのは、東側隣接地と同様、専ら土木工事の営業に必要不可欠な良質の土を確保するためである。

控訴人に被控訴人の時効取得を妨害し不当不正な利益を得ようとする意図がなかったことは、城と谷から願ってもない土地売買の申出があってから約一年の間に、控訴人が、前記認定のような紆余曲折を経る中で、境界についての被控訴人の見解を確認し、土地家屋調査士に依頼して独自に現地調査を行い、かつ、法律上の問題点について弁護士の意見を求めるといった慎重な手順、検討を経た上で、訴訟による解決を図る覚悟で契約締結に踏み切った経緯に照らして、明らかである。

(2) また、前記売買代金額が時価に比ベて不当に廉価であることを認めるに足りる証拠はない。むしろ、(一)土地と(二)土地とでは、本件係争地が占める割合に大きな差があるのに、代金額は、双方とも公簿面積にほぼ同額の単価を乗ずる方法で算出されていることや、約一年前に売買された東側隣接地数筆の売買代金を立証することは、被控訴人にとっても比較的容易なはずなのに、被控訴人がそのような立証活動をしないことから推して、右代金額は、適正な価額の範囲内にあるものと推認される。

(3) 加えて、被控訴人親子は、以前から本件係争地を野菜畑として使用しているものであるが、時効完成時の昭和四六、七年ころに被控訴人の父親が不承不承ではあるが越境の事実を認めた経緯がある。被控訴人親子は、この時点で、少なくとも本件係争地の占有に問題があることを知らされたのであるから、通常であれば、越境の根拠された(三)土地としての占有部分を測量するなどして、相応の対策を講ずるものと思われる。しかるに、被控訴人は、本件訴訟においても(三)土地の公簿面積と実測面積の比較による反論を提出することができないにもかかわらず、本件係争地を(三)土地の一部として前所有者から引渡しを受けたとする主張に拘泥し、特段の対処をした形跡がない。特に、平成四年六月に城及び谷から前訴を提起された機会に、時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めるための保全措置を講ずることをしなかったのは、自己の権利を守るについて熱意を欠いたとされてもやむを得ない。

三  以上の理由により、控訴人の本訴請求は正当であり、被控訴人の反訴請求は失当である。

よって、これと結論を異にする原判決を取消し、控訴人の本訴請求を認容し、被控訴人の反訴請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小長光馨一 裁判官 古賀 寛 裁判官 吉田京子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例